東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9724号 判決 1968年3月30日
原告
練馬交通株式会社
右訴訟代理人
後藤獅湊
被告
旭東自動車株式会社
右訴訟代理人
福田末一
主文
1 被告は原告に対し金三、八三六円およびこれに対する昭和四二年三月一六日以降完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
2 原告その余の請求は棄却する。
3 訴訟費用はこれを二分し、原被告各その一を負担するものとする。
4 本判決第一項は、確定前に執行できる。
事 実<省略>
理由
一、まず、本件最大の争点である衝突直前の甲乙両車の動きと衝突後の甲車運転者の動静とにつき証拠を案ずるに、いずれも成立に争いない<証拠>を総合すると、次の事実を認定することができる。
(一) 訴外堀田運転の乙車は、本件交差点の手前に一時停止の標識があるにかかわらず、一時停止せず、時速約二〇粁で交差点に進入した。と認められる。<中略>
(二) 訴外柳沢運転の甲車は、本件交差点が見通しの悪い交差点であるにかかわらず、また、乙車のヘッドライトによつて乙車の存在が明らかであつたにかかわらず徐行せずに四〇粁以上の速度で交差点に進入したと認められる。<中略>
(三) 衝突後甲車運転者柳沢が原告主張のように失神したのか、それとも失神しなかつたかは、確定することができない。<中略>
二、前段の事実認定に基づいて、甲車運転者と乙車運転者との過失を考えるに前後(一)(二)により、いずれにも衝突につき過失あること、後者の方がその過失の度合は重いこと明らかであつて、その割合は、甲者三に対し乙車七と見るのを相当とする。
三、しかしながら、右は両者の衝突についてのことであつて、甲車が訴外島田方に飛び込んだことによつて生じた損害に対しては必ずしも同様に論じえない。けだし、もし、柳沢が失神せず運転の自由を奪われていなかつたとすれば、衝突が起つたとしても島田方への飛び込みは回避しえたかも知れない反面、失神していたとすれば回避は期待しえないのであるから、この点を考慮せずに衝突における過失割合のみで押し通すことは失当であるからである。
四、失神したか否かは確定しえないこと前記のとおりであるから、この点は、失神を請求原因事実とする原告の不利に解するほかないが、そのことから、衝突とは全く因果関係のない第二の不法行為事故として島田方への飛び込みが生じたと考えるのは相当でないから、右の点はむしろ、衝突と因果関係ある飛び込み事故についての双方の過失割合を原告に不利に修正するものとして取り扱うべきであり、そうすると、双方の過失割合は五割宛とするのが相当である(ちなみに、被告主張の柳沢の不法行為なるものも、右の第二の不法行為の謂でなく、衝突およびこれと因果関係ある飛び込み事故を通じ柳沢に過失あることを主張するものと解すべきこと弁論の全趣旨により明らかであるから、原告主張につき認定した右過失割合を再修正する必要はないと考える。
五、そうすると、甲車の運転者柳沢と乙車の運転車堀田とは衝突に関しては相互に不法行為をし合つたものであつて柳沢の使用者であり甲車の所有者である原告と、堀田の使用者であり乙車の所有者である被告とは、相互に使用者責任を負つて賠償義務者たると同時に、相互に被害者であるわけであるが、その損害額につき斟酌すべき被害者側の過失としては、先に判示した柳沢と堀田との衝突に関する過失割合を採用するほかなく、また、このような同一事故による相互の不法行為責任については、民法第五〇九条にかかわらず相殺は許されるものと解すべきであるから、双方に争いない甲車修理費二万円、乙車修理費三万三、八八〇円を基礎として算出すれば、被告は原告に対し、二万円の七割にあたる一万四、〇〇〇円を支払うべく、原告は被告に対し三万三、八八〇円の三割にあたる一万〇、一六四円を支払うべきこととなり、差引き被告が原告に対し三、八三六円の支払いをなす義務を負うこととなる<後略>。(倉田卓次)